9月13日〜どこまでも砂漠〜
レッグ・レストの立て方がわからず、苦しい姿勢を強いられて、一晩まんじりともできず。朝日に気づいてカーテンを開けると、アリゾナの砂漠が広がっている。おかしい、予定ではグランド・キャニオンが見えるはずなのに、と思ってタイムテーブルを確認すると、遠回りのルート(アリゾナ、ニューメキシコ、テキサス、アーカンソー、イリノイ)の列車に乗っていることが判明。どうやら電話でチケットをとった時、自動的にこっちのルートにされてしまったよう。まあ元々アリゾナの風景が見たくてアムトラックでニューオーリンズに行こうと計画していたのだから、予定通りということにするか。アリゾナからニューメキシコまで、延々と砂漠の風景が続き、この日は「もうお腹いっぱい」というほど車窓の景色を満喫する。
9月14日〜アメリカの広さとは〜
20歳の時にシベリア鉄道&東ヨーロッパ列車の旅を経験しているので、今回あまり不安もなく汽車を選んだのだけど、よくよく考えてみれば、あの時は3人のグループだったのが今回は一人、寝台だったのが椅子、年もとった、と条件は悪くなっているのだった。しかも、今のおちょこKはベジタリアン、スナックバーや食堂車のメニューをチェックしたらまともに食べられるものがほとんどない。しかたがないので、キャンベルのトマトスープやツナ缶、あとは朝ご飯のシリアルでどうにかしのぐ。でも、おちょこKは魚は食べるし乳製品にもそれほど厳格じゃないからまだいいとしても、ほんとのビーガンにはきびしいなあ、これは。
今回の汽車の旅は「アメリカの広さを肌で感じたい」ということで計画したもの。2日座りっぱなしで、痛くなった腰をさすりつつ、昨日の砂漠の風景から一転した、牛が寝そべるテキサスの景色を一日中眺める。
9月15日〜夜中のハイウェイ〜
朝起きたら、窓の外にはミシシッピー川の流れ。アムトラックもなかなか気の利いたことをする。朝ご飯を食堂車ですませ、午後2時にシカゴに着くから昼は駅で食べよう、と思っていたら、結局4時間遅れで到着。(自転車より遅いんじゃないか、と疑いたくなるくらい、のろのろ運転なのだ!)予定していた4時45分発のバスにはとうてい間に合わず、8時半の次のバスまで待つことに。フードコートでチャイニーズのベジタブル・コンボを食べ、久しぶりのちゃんとした食事にありついて、ちょっと一息つく。
シカゴから3時間半、夜中のハイウェイを突っ走るバスに揺られてついにウィスコンシン・マディソンに到着。すでに夜中の12時。暗くなった湖を目の前に、なぜか「は〜るばる来たぜ、函館〜」のメロディが頭に浮かんだ。
9月16日〜友よ〜
ウィスコンシンでは、アメリカでアーティストとしてがんばる藤子ちゃんに再会。アイオワでのカレッジ時代から始まって今年で滞米8年目になる彼女は「日本から友達が来てくれたのは初めて!」と喜んでくれる。でも、メールで毎日のようにやりとりをしていたし、ふたりともなんだか「アメリカで一緒に時を過ごしている」という実感が全然ない。高校時代に戻ったように、くだらない冗談を言い合い、明け方までしゃべり続けたり(まるで合宿)。思う存分日本語でしゃべりながら、友だちっていいな、と心底思う。その一方で、自分の半年の海外生活を振り返って、それをひとりで8年間続けてきた彼女には本当に頭が下がる。彼女のあったかなユーモアにつつまれた作品がひとりでも多くの人に愛されますように!
9月17日〜感じるギャップ、感じられるギャップ〜
藤子ちゃんは大学院を去年卒業した後も、学生寮の一室に住んでいる。なので、周りはみんな若い男女、特に9月は新学期シーズンなのでキャピキャピした雰囲気が建物全体に漂っている。今年20代最後を迎えた我らとしては、つい「若いねえ」と顔を見合わせてしまう。がしかし、彼らにしてみれば「なんで子どもがここにいるの?」てな感じに思われてるんだろうなあ。(ふたりとも童顔。背も低い。)藤子ちゃんに「アメリカで若く見られて損したことと得したこととどっちが多い?」と聞いてみたところ、彼女はしばらく考えて、「若く見られる云々というより、外国人であることやアーティストであるために軽く扱われることの方が多い」と言う。確かにアメリカでは年齢というよりは、「何をしているか」ということで人を判断するところがある。その点では、「ジャーナリスト」のおちょこKは得してるのだろうか?
9月18日〜アーティスト道〜
今晩は、藤子ちゃんの作品3点が入選したWisconsin Triennialのオープニング・レセプションに参加。ウィスコンシン州から約470人の応募があった中で実際に入選したのは彼女も含めてたったの45人。大勢の人々が彼女の作品を興味津々で見入ったり、「わあ、おもしろい!」って感じでニコニコしてるのを見るのは、友人として嬉しく誇らしい。今回の展示も含め今年だけで21の展覧会に入選しているし、このイベントを紹介した新聞には作品やインタビューが掲載されたり、ウィスコンシンの新進アーティストとして注目度大の彼女。でもそれだけの成果があっても、やっぱりアートだけで生活していくのはものすごく大変なよう。頭ではわかっていたつもりでいても、こうして友人が実際にその道でがんばる姿を見ると、エールを送らずにいられない。おちょこKが大金持ちだったらパトロンになれるのに!
9月19日〜今度はグレイハウンド〜
コネティカットに住む父の従妹、ときこさんを訪ねに、今度はグレイハウンドでウィスコンシンからシカゴ、そしてニューヨークまで出て、コネティカットまで移動。昼1時30分にウィスコンシンを出発、シカゴを夕方5時に出、バスの中で夜を明かす。途中、オハイオのクリーブランドで清掃のために全員一度外に出され(夜中の12時)、ニューヨークに着いたのが朝の10時。(予定より1時間も早い!アメリカでは列車よりバスの方が速いのかも・・・。)ミール・ストップやらセーフティ・ストップやらで3時間に一度くらいは休憩時間があり、その点では逆にアムトラックよりも外の空気が吸えて、食べ物も豊富に手に入るし、きれいなトイレも使えるし、なかなか快適。座席はちょっと狭く、隣のおじさんの整髪料の匂いがちょっときつかったけど、いつのまにか寝てしまった。とはいうものの、一人旅だとやっぱり緊張する。無事にときこさんの出迎えを受け、さすがにほっと一安心。
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