4月19日 〜食べ物のあるシアワセ〜
 財布の中に現金が4ドルしかないこともあり(ATMで20ドル以上は怖くてなかなかおろせないので、外食が続くとすぐお金がなくなってしまう)、今日はお弁当持参。冷凍保存してある全粒ライ麦パン、ロメインレタス(レタスとサニーレタスの中間くらいの味)、スーパーで買ったハマス(ひよこ豆のペースト)をサンドイッチ用に用意し、トマト、オクラ、レモンをタッパーに詰めてオフィスへ。オフィスには冷蔵庫(大きい!)はもちろん、オーブントースター、電気コンロ、電子レンジがあるので、こういう時は本当に便利。昼時、冷蔵庫に入れておいた食料を取り出して、いそいそとハマス・サンドイッチを作り、トマト&オクラにレモンをしぼる。どうってことないランチなんだけど、アメリカに来た頃の貧しい食生活を思い出すと、涙が出るくらい嬉しいメニューだ。そういえば、いつのまにかキッチンの自分用の棚も満杯になって(友人から大量の日本食を提供してもらったおかげもある)、毎日ちゃんとしたご飯がまがりなりにも食べられるようになった。用心のために買い置きしてあるインスタントラーメンも未だ手つかずで残っているし、「ああ、落ち着いたんだなあ」とふと、一人感慨にふけってしまった。

4月20日 〜センチメンタル・ココナツ〜
 家に小さなピアノがある。いつでも弾いていい、ということなので(ちなみに毎日Tinaが練習している。40?の手習いというのに、真面目に続けていてエライ!)、日本から矢野顕子の楽譜集を送ってもらって時々弾いている。彼女の「Piano Nightly」というアルバムに「椰子の実」があり、教科書に載っている有名な歌が例によって大胆にアレンジされている。何の気なしに弾いてみてふと歌詞の部分を見ると、これがもう、思いっきり感傷的な気分を誘う詩なのだ。誰でも知っていると思うけど、念のため、再録。

  名も知らぬ 遠き島より 流れ寄る 椰子の実一つ   故郷の 岸を離れて 汝はそも 波に幾月
  旧の樹は 生いや茂れる 枝はなお 影をやなせる   われもまた 渚を枕 ひとり身の 浮き寝の旅ぞ
  実をとりて 胸にあつれば 新たなり 流離の憂い   海の日の 沈むを見れば 激り落つ 異郷の涙
  思いやる 八重の汐々 いずれの日にか 国に帰らん

 以来、この歌が耳について離れない。ただひとつ困るのは、オリジナルのメロディがどうしても思い出せないこと。(もう矢野顕子バージョンでしか歌えない。)「ああ、ここまでは同じなんだけど、この先はどうなんだったけ」といつも歯がゆい。こればっかりは、日本人に直接聞かないとわかんないしなあ・・・。

4月21日 〜ラクロスと握り飯〜
 JanetteがJohns Hopkinsのラクロスの試合のチケットを譲ってくれたので、Jessicaを誘ってでかける。7時スタートだったので、日頃お世話になっているお礼も兼ねて、お弁当を作った。おむすび(梅シソとごま)、こんにゃくの炒め煮という超シンプルなメニュー。本当はアジアン・ストアでみつけた春雨で春巻きも作りたかったのだけど、具を炒めたところで時間切れになってしまった。日本からはるばる運んできた竹皮と竹籠のお弁当箱におむすびを詰め、とりあえず、パッケージでごまかす。
 JessicaもおちょこKもラクロスを観るのは初めて。平日ということもあって、観客席は3割くらいの入りだろうか。チアリーダーやブラスバンドは別として、みんな意外と静かに観戦している。Johns Hopkinsが強いのか相手が弱すぎるのか、ハーフタイムで早くも25対4、という大差がつくという試合内容。選手には申し訳ないが、ついついお弁当の話題で話しこんでしまい、「昔のお坊さんはこんにゃくを肉代わりにして食べた」なんてことを一応説明する。アーティストでもあるJessicaはお弁当箱を喜んでくれ、おむすびやこんにゃくも気に入ってくれた様子で、安心する。でも、絶対手でおむすびを食べようとしないところが、やっぱりアメリカ人なんだなあ、と奇妙なところで納得。いずれにせよ、アメリカの薄手の鍋でアメリカ米を上手に炊けるようになるのが、これからの課題だ!

4月22日 〜ベジタリアン講習会〜
 Johns HopkinsのFestivalで会ったMark(VRGのメンバーのひとり)が、Fresh Fieldsというこの辺では有名な自然食品スーパーで、ベジタリアン講習会をやるというので、参加させてもらう。「VRGでインターンをしてるんだったら無料でいいよ」とのMarkの親切に甘えさせてもらったが、本当は13$(事前に予約すれば10$)かかる。会場は、店内の片隅にある飲食スペースで、他のイベントでもよく使われるらしい。
 Markに「今日は何人くらい来るの?」と聞いたら「8人くらいかなあ」との返事だったが、実際に訪れたのはおちょこKも含めて3人。一人は黒人の若い女性で、健康上の理由でベジタリアンになりたいのだけど、夫が肉好きだし、自分自身も何度挑戦してもなかなかなれない、という人。もう一人は50代くらいの女性で、仕事がとにかく大変で食生活が不規則、乳ガンになったこともあり、他にもリンパ腺に異常があるなど、かなりせっぱつまった感じ。VRGの中にいるとみんな「ベジタリアンになるのは簡単」と言うけれど、まあ普通はなろうと思ってもなかなかなれない、というのが本当のところだろうなあ、 と改めて思う。
 講習内容は、Markが作ったレジュメ(栄養面の解説、アメリカ栄養ガイドライン、食品ラベルの脂肪率の読み方、1ヶ月メニュー、レシピ)を元に進められたが、正直、栄養面の解説は後にして、どうすればベジタリアンな食生活ができるか、など実際面の話を先に持ってきた方が彼女たちのニーズにはあってたかなあ、と思う。最後に、豆腐、豆、インスタント食品、フェイクミートなどの食材を見せて、どう料理するか説明していたけれど、本当はこれも試食ができればよかったんだろうなあ。こっちの経済感覚は今ひとつよくわからないけれど、13$払って彼女たちは満足したんだろうか? (ちなみにVRGの年会費は20$。)

4月23日 〜夜のダウンタウン(心臓に悪いけど刺激的)〜
 VRGのボランティアをしたこともあるLisaがギャラリーをオープンするというので、Jessica&Wesに誘われて出かけた。場所は、ダウンタウンのちょっとScaryな界隈の近くで、途中道に迷いその辺りを(もちろん車で)ぐるぐる回ってしまった。Jessicaはかなり神経質になっていたけれど、それも無理はなく、一帯に漂う雰囲気そのものが怪しいというか、緊張感を誘うのだ。しかも夜だし。ふだん徘徊しているエリアは割と高級住宅街でけっこうリラックスして歩けるのだけれど、この辺りは「ああ、やばいやばいやばい」と一時も早く抜け出したくなるような、いやあな感じに包まれている。(信号待ちでさえ、心臓に悪い!)本当にアメリカというところは、教育とお金がある(といっても中流階級程度)人たちとそうでない人たちとの差が激しすぎるなあ、と、ドキドキしながら感じてしまった。でも、こんなこと一人じゃとてもできないし、とりあえず何事も経験経験。
 ギャラリーは小さいながらも居心地が良いスペースで、展示されているアートもそれほど高くないのに(一番高くて250$。中には25$なんてのも。とってもいいのに!)見ていてわくわくするような、あったかい楽しさがある。集まった人たちも、アーティストにありがちなとっつきの悪さやエキセントリックな態度がなく、何人かと会話を楽しむことができた。普段の生活はオフィスと家の往復+独行の繰り返し、何かイベントがないとなかなかつき合いの輪が広がっていかないので、たとえその場限りの交流でも、こういう機会は本当に貴重なのだ。帰りは、ちょうど野球観戦帰りの人の波にぶつかり、いつかオリオールズの試合も生で観たいなあ、と思う。

4月24日 〜昼のダウンタウン(またまた本屋)〜
 こっちに来た最初の週末以来、ようやくダウンタウン探検に出かけることができた。さすがに1ヶ月以上経つと気候も暖かく、3月より大分街に人の姿が見える。多少勝手もわかってきたこともあり、一人でもあまり心細くなくテクテク歩く。バスの乗り方や通りの名前を知っているだけで、これだけ気の持ちようが違ってくるものなんだろうか。外国での一人暮らしは、本当に「ささいなこと」をひとつひとつマスターしていくことで、いろんなことが大きく変わってくる。
 今日の主な目的は、ダウンタウンを開拓したかったというのもあるけれど、前回同様やはり本屋。英語のテキスト(気ばかり焦る)、来週出張のロスのガイドブックを手に入れたかったのだ。またBarns&Nobleでもよかったのだけど、その前に以前から気になっていたMount VernonエリアのLoise Book&Cafeへ。ここは小さいけれどアート関係の本が充実していて、ボルチモアでは有名な本屋。レジ前のコーナーにアラーキーの写真集をみつけて密かに興奮してしまった。アーティストもよく訪れるというカフェではアコースティック・ギターの生演奏中。「禁断の」チーズケーキを食べながら(美味しかった!!)、久々に「街」っぽい雰囲気を満喫する。その後、通りの向かいの本屋に入ったらなんと古本屋で、「うれしいなったらうれしいな」とこれまた久々の古本の匂いに包まれる。ここでなかなか良さそうな英語のテキストを2冊、60年代の料理の本、Life's Little Instruction Bookという「毎日楽しく生きるためのちょっとしたポイント集」をゲット。しめて約19$。安いなあ!
 日暮れまでまだ間があったので、ハーバーまで足を延ばし、ウォータータクシーで一回りする。ボルチモアのガイドブックも買ってあるのだけれど、やはりこうして実際に見てみると本を読んだだけではなかなかわからなかった(英語だし!)ところがスッと飲み込める。本当はFederal Hillという割と古いエリアも行きたかったのだけれど、グレイハウンド・バスの情報(どのガイドブック、地図、観光案内を見ても情報がない!)入手を優先。ちょっと気配が違う(要するに黒人ばかり)一帯にセンターがあり、多少ドキドキしながら偵察する。NY行きのタイムテーブルも手に入れたし、インターネットのサイトもわかったし、タクシーがいっぱい待機しているので帰りの足は心配ないことも確認できたし、(危ないこともなかったし)、よしよし、と一人うなずく。今度はDCにバスで行ってみよう!

4月25日 〜ベジタリアン・ランチパーティ〜
 VRGとDCのベジタリアン・ソサイエティ主催のランチパーティに出かける。Joy Of Livingというベジタリアン・レストラン(といっても、なぜかメニューに「ツナサラダ」が・・・)が会場で、およそ40人ほどが集まった。中年以上が7割、男女比はやや女性多し、8割が白人といった顔ぶれ。みんながみんな知り合いあるいはVRGのメンバーというわけではないらしいが、割合和気あいあいとした雰囲気。食事はブッフェ・スタイルで、レンティル・スープ、ブラックビーンズサルサ、サラダ、豆腐ラザニヤ、玄米ピラフ、フライドポテト、パン、といったVeganメニュー。これで14ドル。ベジタリアンの情報も手に入り、友達の輪も広がる、参加者にとってはなかなか楽しいイベントなのだろう。途中、おちょこKのことが紹介され、なぜか拍手がおこり、なんだか照れてしまった。

その日暮らしの記に戻る
Go Back to Home