8月2日〜ボルチモアの空の下、大貫妙子が流れる〜
 ちょっと買いたい本があったので、仕事帰りにLouiseまで出かける。お目当てのものはなかったけれど、セールのコーナーにアラーキーの写真集を発見。パラパラとページをめくりつつ、「人生の苦しみではなく、生きることの喜びを撮り続けていきたい」という彼の言葉にしばしひたり、「東京日和」など一連の故・陽子夫人との作品集を思い出す。家に帰って、夕陽を浴びながら、映画「東京日和」のサントラを聴く。映画そのものはちょっとこりすぎであまり好きになれなかったけれど、この大貫妙子のアルバムはMy Favoritesのひとつ。ボルチモアに来てからも、リリカルな旋律にどれだけ心慰められたことか。窓辺には、久しぶりにファーマーズ・マーケットで贅沢して買ったひまわりの花束。変わっていく空の色をぼんやり眺める日暮れ時。

8月3日〜浮世離れ〜
「荷造りを始めた時期なのに悪いけど・・・」と友人が日本の雑誌を送ってくれた。「女性セブン」「FRIDAY」「AERA」「SPA!」「週刊朝日」「週刊読売」あと「文春」が2冊。久しぶりにかぐ、ザラザラした紙の匂い。日本のニュースはAOLでだいたいチェックしているけど、やっぱり活字は活字で読み始めたら止まらなくなる。結局一日で全部読んでしまった。サッチー、梅宮アンナから君が代・日の丸法案まで、平和なのかなんだかやばいのか、「今どきの日本」をいちどきにとりこんで妙にぐったりした気分になってしまった。昨日のアラーキーの言葉じゃないけれど、日本のニュースに欠けてるのは、Joy of Lifeなのかもしれない。なんだか無性に寄席に行きたくなってしまった。

8月4日〜一足お先に〜
 VRGのメンバーかつJohn Hopkinsで栄養学を研究している人が、京都の国際会議に出かける、というので、資料をもらいにオフィスにやってきた。日本語のものもリクエストされ、おちょこKが翻訳したVRGのパンフレットを大急ぎでコピーする。ちょうど、おちょこKの記事(しかも2本!)が掲載される最初の号のゲラ刷りも上がってきていたので、Davidaが気を利かせてこれも渡してくれた。本人が帰国する前に、自分が書いたものが日本で配られるなんて妙な感じだけど、やっぱり嬉しい。
 Vegetarian Journal 秋号から続々と記事も掲載されるし、読者からどんな反応があるか、それも楽しみ。でも、今読み返してみると未熟な点(英語はチェックされてるからまだしも、内容的に)が多そうで、ちょっと心配だなあ・・・。

VRGホームページの日本語訳がインターネットで見られるようになりました!

8月5日〜ラスト・ファースト・サーズデイ〜
 毎月第一木曜日恒例のMount Vernonで行われる「ファースト・サーズデイ」イベント。今日で最後だあ、と感慨にふけりながら、今まで気になりながらも足を運ぶ機会がなかった、Walters Art Museumへ出かける。(このイベントがある日は5時から8時まで無料!しかもエントランス・ホールではフリー・ジャズコンサートも。)展示自体はアメリカのお金持ちがちょっと趣味で集めてみました、という感じでなんてことないのだけど、久々に入る美術館の空気がうれしい。これまた無料のクッキーとレモネードで小腹を満たして、ここ数日ヒラリー・クリントンの衝撃インタビューで話題沸騰の創刊誌Talkを買いにBarns&Nobleまでテクテクと歩く。ここに行く時はいつも、ボルチモアに来たばかりの心細い気持ちを思いだして「よくも今日まで・・・」としみじみしてしまう。そろそろ日本に荷物を送り返す時期だというのに、またたくさん買ってしまった・・・(でも日本じゃなかなか買えないと思うとつい・・・)。本当にここは「魔境」だ!

8月6日〜いきなり豚だらけ〜
「今日Pig Sanctuaryに行くけど一緒に来る?」とDarから電話があり、ようやく「豚保護地帯」(直訳)の実態を見に行けることになる。ボルチモアのあるメリーランド州の隣、ウエスト・バージニア州まで1時間余り車を飛ばし、たどりついたサンクチュアリは一見広々とした牧場。がしかし、馬、牛、うさぎ、犬、猫、やぎ、ひつじ、鶏、がちょう、ろばとなんだかやたらにいろんな動物がいる。そして、更に奧に進めば、まさにそこは豚牧場。普通の牧場に牛だの馬だの羊だのがいるのと同じ感じで豚がわさわさ、草をはみ、木陰に寝そべっている。大きいのやら小さいのやら、なんと総勢300匹いるそう。一匹一匹に名前がちゃんとあるらしく、"Hi, Oferia(すごい名前だ)!"などと声をかけつつ、犬や猫と同じように撫でてやるDar。肉屋さんだったら「う〜ん、うまそうだ」なんて思うんだろうか、などと不埒なことを考えつつ豚に靴を食べられそうになるおちょこK。ここの動物たちは、薬殺されそうになった競走馬、見せ物ショーから救出されたロバ、犬に襲われた豚などと皆それぞれ悲惨な過去(!)を背負っているらしく、だからこそサンクチュアリなのだ。さすがにこういう光景を目の当たりにすると、ますます肉が食べられなくなるのであった。

8月7日〜ねばねばご飯〜
 VRGのポットラック(食べ物持ち寄り)ピクニックで、Jeannieのリクエストを受けスティッキー・ライス(赤飯)を炊く。家には蒸し器がないので普通のご飯の要領で餅米を炊くせいか、やたらスティッキー(くっつく)になってしまう。みんなに「おいしい!でも、どうしてこんなにスティッキーなの?」と聞かれ、返答に困る。(なんか片栗粉のようなくっつくものを入れたのかと思うらしい。)こういう時いつも感じるのだけど、和食ってケータリングとか時間をおいて持っていくのに不向きなものが多い。煮物は見た目がいまいちだし。ベジタリアン(できればビーガン)で、こういう持ち寄り料理で喜んでもらえるメニューは何がいいんだろう。これは今後の課題。あとないものねだりだけど、タッパーとかじゃなくてお重やなんかがあれば、プレゼンテーションもグレードアップできるのに・・・!

8月8日〜書くということ〜
 実は今月は原稿の締切が合計6本重なっている。みんなノーギャラなのが辛いところ、でも自分の勉強になることだから、ここのところパソコンの前に座って、ああでもない、こうでもない、とうんうん唸っている。それにしても、何かを書くということはよほどテーマに対する思い入れがあり、しかもそれ相応の知識がないと、どうしても浅くなりがちで、自分の力不足を改めて思い知らされる。雷を伴う大雨なのを幸い、今日は一日部屋にこもってキーボードを叩き続け、とりあえずの目処をつける。今更どこかへ出かけるのも何なので、持参しながら今まで手にとることのなかった、半七捕物帖やら幸田露伴やらを立て続けに開く。英語のラジオを聴きながら、「親分」だの「おまいさん」だのが飛び交う世界に遊ぶのは、なんだか不思議な心持ち。日本に帰ったら、古本屋に行って旧仮名遣いのものを探してみよう。

その日暮らしの記に戻る
Go Back to Home